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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(オ)45号 判決

上告人

日魯漁業株式会社

右代表者代表取締役

池永次郎

右訴訟代理人弁護士

田辺恒貞

阿部隆彦

関根裕三

田中治

被上告人

株式会社アラスカ興業

右代表者代表取締役

疋田悦巳

右訴訟代理人弁護士

赤井文彌

船崎隆夫

山田秀一

清水保彦

小林茂和

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田辺恒貞、同阿部隆彦、同関根裕三、同田中治の上告理由第一及びこれに関連する冒頭記載部分について

物上保証人が債権者に対し当該物上保証及び被担保債権の存在を承認しても、その承認は、被担保債権の消滅時効について、民法一四七条三号にいう承認に当たるとはいえず、当該物上保証人に対する関係においても、時効中断の効力を生ずる余地はないものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、これと異なる見解に立って原判決を論難するか、又は原判決の傍論部分の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二及びこれに関連する冒頭記載部分について

記録によれば、上告人は、原審の第一回口頭弁論期日において、上告人の第一審における口頭弁論の結果を陳述するに際し、第一審判決事実摘示のとおり陳述したものであることが認められるから、所論の主張は撤回されたものというべきであり(最高裁昭和三九年(オ)第六五一号同四一年一一月一〇日第一小法廷判決・裁判集民事八五号四三頁参照)、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三の一、二について

原判決に所論の違法はない。論旨は、原審において主張しなかった事実又は独自の見解に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

同第三の三について

原審の確定した事実のほか、記録にあらわれた原審における上告人の主張事実を含めて勘案しても、被上告人が本件抵当権の被担保債権についてした消滅時効の援用が信義則に違反するものということはできず、したがって、被上告人の消滅時効の再抗弁を理由あるものとした原審の判断は、結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大内恒夫 裁判官角田禮次郎 裁判官髙島益郎 裁判官佐藤哲郎 裁判官四ツ谷巖)

上告代理人田辺恒貞、同阿部隆彦、同関根裕三、同田中治の上告理由

原判決は、第一審判決同様上告人の本件抵当権設定の主張事実を認めながら、右抵当権の被担保債権が昭和五四年一一月三〇日の経過により時効消滅したとして、第一審の判決を覆し、被上告人の請求を認容した。

しかしながら、右被担保債権の消滅時効は中断していたのであり、仮にそうでないとしても、被上告人は時効の援用権を喪失していたものであって、右の点に関する原判決の判断には、判決に影響を及ぼすこと明かな法令の違背が存する。また、原判決は上告人の時効中断、援用権喪失の主張のうち一部についてのみ判断を加え、その余の主張について全く判断をなしておらず、審理不尽、理由不備の違法をもおかしており、取消を免れない。

第一

一、原判決は、被上告人が上告人に乙第五号証の内容証明郵便を送付して本件被担保債権の代位弁済の申込をなしたことが、時効中断事由としての民法一四七条三号の承認に該当するか否かについて、債権債務の存否は債権者と債務者のみがこれを知っているものであるから、債権者でも債務者でもない物上保証人は債務を承認すべき立場にないし、乙第五号証による代位弁済の申込は承諾の期間を申込の到達後一〇日以内と定めたものであるから、当該期間内に承諾の通知がなされないときは効力を失うので、かかる申込みをしたからといって債務承認をなしたとは評価しえないとする。

二、しかし、「承認」とは、相手方の権利の存在を認識している旨の観念の通知であるから、かかる相手方の権利の存在を認識しうる者であれば「承認」をすることができる。しかして物上保証人は、いずれも第三者たる甲(債務者)の乙(債権者)に対する債務を担保するために責任を負担する者であるから、甲乙間の債権債務の存在を認識しうる立場にあり、(被担保債権が存在するか否かを知らずに担保を提供することなどはありえない。)、民法一四七条三号の承認をなしうる立場にあるのである。

三、また、代位弁済の申込自体は、一つの意思表示であり、承諾期間を定めた申込が期間内に承諾の通知がなされないときは効力を失うことは明らかであるが、前記のとおり「承認」は相手方の権利の存在を認識している旨の観念が通知されれば足りるのであるから、現になされた申込(意思表示)は承諾のないことによって効力を失なったとしても、そこに含まれる相手方の権利の存在の認識(観念の通知)という事実自体は消滅するものではない。

したがって、本件における被上告人の代位弁済申込を債務承認と評価しえないとした原判決の判示は明らかに不当である。

第二、第三〈省略〉

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